今回は「世界は宗教で動いてる (光文社新書)」のBookレビューをしていきたいと思います。先日、「「1日1ページ、読むだけで身につく世界の教養365」という本をレビューしましたが、宗教というジャンルは興味深いものでした。私たち日本人は無宗教といわれますが本当にそうでしょうか。日本の宗教の歴史を見てみると、古来より神道が信仰されていたところに仏教が輸入され、神仏習合へと続いていきます。この事実を日常生活で意識することはほとんどありませんが、世界では宗教との関係は極めて密接なのです。海外では、日本人は宗教に関する知識が不足していると言われることが多いそうですが、各宗教について最低限の知識を身につけておくことは、ビジネスマンの教養として最低限必要だと感じました。
著者情報
橋爪 大三郎(はしづめ・だいさぶろう)
1948年神奈川県生まれ 。東京大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学 。 1995 〜 2013年 、東京工業大学教授 。 『言語ゲ ームと社会理論 』 『仏教の言説戦略 』 (以上 、勁草書房 ) 、 『はじめての構造主義 』 『はじめての言語ゲ ーム 』 『ふしぎなキリスト教 』 (共著 ) 『おどろきの中国 』 (共著 ) (以上 、講談社現代新書 ) 、 『世界がわかる宗教社会学入門 』 (ちくま文庫 ) 、 『橋爪大三郎の社会学講義 』 (ちくま学芸文庫 ) 、 『なぜ戒名を自分でつけてもいいのか 』 (サンガ新書 ) 、 『橋爪大三郎といっしょに考える宗教の本 』 (監修 、ナツメ社 )など著書多数 。
本の概要
本書は、慶応丸の内キャンパスにて行われた「宗教で読み解く世界」の講義が元になっています。先生と生徒が議論を交わしながら、各宗教の様々な疑問に対する答えを掘り下げていくという構成になっています。今回はいくつか抜粋しますが、興味深い問いがいくつもありますので、ぜひ一読してみてください。
なぜイエスが十字架で死ぬと、人間が救われるのか
いきなり難問です。(この問いの答えを考えるのに必要な前提知識は、これ以前の章で解説がありますので大丈夫です。)この章では、そもそもなぜ十字架刑でなければならなかったのか。そもそも「救われる」とはどういう意味なのか。こう言った初歩的なところから議論をします。この過程を経ることで、キリスト教はユダヤ教やイスラム教と何が違うのかということを本質から理解するのに役立つと感じました。
イスラム原理主義とは何か
イスラム原理主義と聞くと、「過激派」とか「テロ」という言葉と結びつくことが多いと思います。これは報道の仕方にも原因がある一方で、情報を受け取る私たちの勉強不足でもあると感じます。そもそも原理主義とはキリスト教の用語で、聖書を文字通り、どの部分も正しいと読む態度のことをいうそうです。したがって、この意味で原理主義者ですかと質問したら、全てのムスリムはYESと答えるでしょうし、過激なテロを行うという意味で原理主義者ですかと質問したらほとんどのムスリムはNOと答えるでしょう。そういう意味ではジハードも同様に考えることができ、イメージだけで様々な概念を一緒くたにするのはやめるべきということです。
神仏習合とはどのような考え方か
もともと神道の国である日本に先進思想の仏教が入ってきました。それまでカミを信じていた日本人は、仏をどのように考えれば良いか分からず、なんとかカミと仏を調和させようと工夫します。その過程で生まれたのが本地垂迹説です。仏がカミなら仏を拝めばカミを拝んだことになり、神道と仏教は同一視ができるわけです。これがいわゆる神仏習合です。
まとめ
本書は専門書ではないため、各宗教について学ぶ入門書としては大変良書だと思います。「宗教」と聞くと、難しそう・怖い・危ないというイメージが先行しがちですが、これは完全に知識不足が招いた結果です。日本人は宗教について考えることも勉強することも滅多にありません。私自身、宗教の知識がないことを不安に感じる一方で、日本で生きていくので問題ないと思っていました。ただ昨今、訪日外国人の数も増えていますし、今年はオリンピックの開催年でもあります。日本と海外との距離はより一層近くなるでしょう。英語を勉強することも大変重要ですが、宗教を理解することは、その国のその人の本質的な部分を理解することだと思います。海外での活躍を視野に入れるビジネスマンはもちろん、海外の方と関わる機会のあるたくさんの方におすすめしたいと思います。